2017-07-25

魂の到着を待つスー族/『裏切り』カーリン・アルヴテーゲン


『罪』カーリン・アルヴテーゲン
『喪失』カーリン・アルヴテーゲン

 ・魂の到着を待つスー族

『「長生き」が地球を滅ぼす 現代人の時間とエネルギー』本川達雄

ミステリ&SF

 彼女はアメリカ先住民のスー族のことを思った。1950年代、彼らは大統領との会見のためにノース・ダコタにある先住民居住地から飛行機に乗せられた。ジェット機は彼らを数千キロ離れているワシントンDCまで運んだ。首都の空港到着ロビーに足を踏み入れた彼らは床に座り込んだ。待機しているリムジンへどんなに勧めても無駄だった。彼らはそのまま1ヵ月その場に座り続けた。飛行機に乗せられて運ばれたからだと同じ速さで移動することができない魂を待っていたのだった。30日後、彼らはやっと大統領に会う用意ができた。
 もしかすると、わたしたちに必要なのはそれではないだろうか? 生活をなんとか全部機能させようと必死に努力をする、ストレスいっぱいのわたしたち。わたしたちは腰を下ろして、ゆっくりするべきではないのだろうか。だが、わたしたちはすでに腰を下ろしているのだ。魂の到着を待つためにではなく、居間でそれぞれが自分のコーナーに座る。なんのために? テレビでお気に入りのドラマを心ゆくまで見るために。ほかの人間たちの欠点や短所を笑い、人間関係の失敗を楽しむのだ。いったいどこまで愚かなのだろう? そして自分自身の行動を反省するのを避けるために、面白くなくなったらすぐにチャンネルを変える。離れたところではほかの人間たちを批評するほうがずっと楽なのだ。

【『裏切り』カーリン・アルヴテーゲン:柳沢由実子〈やなぎさわ・ゆみこ〉訳(小学館文庫、2006年)】

 夫婦の擦れ違いを描いたサスペンスである。一度挫けているのだが、このテキストを探すために再読したところ一気に読み終えた。やはり読書は知的体調に左右されるのだろう。カーリン・アルヴテーゲンの第3作目でここまではハズレなし。

 私がインディアンや台湾原住民に憧れるのは彼らに自然な進化の度合いを感じるためだ。ヒトは文明を手に入れ、そして逞しい生命力を失った。国家は人間を社員(≒納税者)に変えてしまった。もちろんインディアンを理想視するつもりはない。一部に暴力的な衝突があったことも確かである。それでも彼らが有する「人間の貌(かお)」に私は惹(ひ)かれる。

 平仮名が多すぎて読みにくい文章だ。せめて「からだ」は漢字表記にすべきだ。ボーっとしていると助詞のように読めてしまう。

 時間論として捉えると面白味が一段と増す。スー族は文明の不自然さを嫌ったのだろう。私も若い頃から乗り物のスピードが人生に及ぼす影響について考え続けてきた。走るスピードを超えた時、何かが変わるはずだ。速度は空間を圧縮する。とすれば小規模な双子のパラドックスが起こると考えてよかろう。スー族は人間の分際を弁えていた。

 私の疑問については本川達雄が見事に答えてくれている。次回紹介する予定。

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テクノロジーは人間性を加速する/『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』ケヴィン・ケリー

2017-07-24

靴下を探す


 何とはなしに「いい靴下が欲しいな」と思い、散々探し回ったので記録しておく。安いのから順番で買ってゆく予定である。一部送料が掛かる商品を含む。









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2017-07-23

“芯の堅い”利他主義と“芯の柔らかい”利他主義/『人間の本性について』エドワード・O ウィルソン


『あなたのなかのサル 霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源』フランス・ドゥ・ヴァール
『共感の時代へ 動物行動学が教えてくれること』フランス・ドゥ・ヴァール
『生き残る判断 生き残れない行動 大災害・テロの生存者たちの証言で判明』アマンダ・リプリー
『ハキリアリ 農業を営む奇跡の生物』バート・ヘルドブラー、エドワード・O・ウィルソン

 ・“芯の堅い”利他主義と“芯の柔らかい”利他主義

・『道徳性の起源 ボノボが教えてくれること』フランス・ドゥ・ヴァール
・『モラルの起源 道徳、良心、利他行動はどのように進化したのか』クリストファー・ボーム
『徳の起源 他人をおもいやる遺伝子』マット・リドレー
『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
・『ハキリアリ 農業を営む奇跡の生物』バート・ヘルドブラー、エドワード・O・ウィルソン
『宗教を生みだす本能 進化論からみたヒトと信仰』ニコラス・ウェイド
『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉』ジョセフ・ヘンリック
『家畜化という進化 人間はいかに動物を変えたか』リチャード・C・フランシス
『文化的進化論 人びとの価値観と行動が世界をつくりかえる』ロナルド・イングルハート

宗教とは何か?
必読書リスト その五

 この奇妙な選択性を理解し、人間の利他行動にまつわる謎を解くためには、我々は、協力的な行動の二つの基本的な形態を区別しておかねばならない。まず第一に、利他的な行動は、非理性的な形で、一方的に行使されることがある。この場合行為者は、意識の上で等価的見返え(ママ)りを望んでいないばかりでなく、同時に、無意識的な振舞いにおいても、結果としてそういった報いを望むのと同じ効果を示すような行動は、示さないのである。このような形態の行動を私は、“芯の堅い”利他主義 hard-core altruism と呼んでいる。これは、子供期以後の社会的賞・罰によっては、あまり影響を受けない一群の反応である。仮にこのような行動が見られるならば、それはおそらく、血縁選択、すなわち、競争関係にある家族または部族そのものを単位として作用する自然選択に基づいて進化したものと考えられる。“芯の堅い”利他主義は、非常に近縁な血縁者に向けられるものであり、相手との近縁の程度が薄まるに従って、その出現頻度や強度は急激に減少するものと予想される。これに対してもう一つ、“芯の柔らかい”利他主義 soft-core altruism と呼ぶべきものがあり、こちらは本質的には利己的な行為である。この場合、“利他的行為者”は、社会が、彼自身あるいはそのごく近縁な親族に、お返しをしてくれることを期待しているからである。彼の善行は損得計算に基づいており、この計算は、しばしば完全に意識的な形で実行されている。彼は、うんざりする程複雑な、各種の社会的拘束や社会的要請をうまく活用しながら、あの手この手を行使するのである。“芯の柔らかい”利他主義の能力は、主として個体レベルの自然選択に基づいて進化したものと考えられ、同時に、文化進化のきまぐれな変動にも大幅な影響を受けているものと思われる。“芯の柔らかい”利他行動の心理学的媒介項となるのは、嘘、見せかけ、欺瞞などである。欺瞞には自己欺瞞も含まれている。自分の振舞いに嘘いつわりはないと信じ込んでいる行為者は、最も強い説得力を示すだろうからである。

【『人間の本性について』エドワード・O ウィルソン:岸由二〈きし・ゆうじ〉訳(思索社、1980年思索社新装版、1990年/ちくま学芸文庫、1997年)】

 旧ブログの抜き書きを削除してこちらに移す。再読して痛感したのだが、やはり「第7抄 利他主義」が本書の白眉である。

 2009年に読んであっさりと挫けたのだが、昨年何とか読了した。私にとっては忘れ難い読書道のメルクマール(指標)となった一冊である。エドワード・オズボーン・ウィルソン(1929-)は昆虫学者で社会生物学を提唱したことで知られる。

「情けは人の為ならず巡り巡って己(おの)が為」という。親切な行為には何らかの自己犠牲が伴うものだが時に疲労を覚えることがある。裏切られることも決して少なくない。「巡り巡って己(おの)が為」をエゴイズムと捉える向きもあるようだがそうではない。利他とは自分を取り巻く環境に正義や公正を実現する営みなのだ。困っている者や弱い者、打ちひしがれた者を助けるのは当たり前だ。躊躇(ちゅうちょ)や逡巡が入り込む隙(すき)はない。

「“芯の堅い”利他主義」とは例えば我が子が目の前で溺れた時に発揮される行動であろう。それに対して「“芯の柔らかい”利他主義」とは文化的・社会的・宗教的価値観に基づく判断と考えられる。殉教や自爆テロなど。

 因(ちな)みに仁義の仁とは自分と近しい人に施す情愛で、義は距離に関係なく示される正義のこと。

 このテキストだけではわかりにくいと思うが、冒頭の「奇妙な選択性」とは国際社会で無視された大量虐殺を示している。中東の例を出してインディアン虐殺を出さないところがいかにもアメリカ人らしい。

 利他主義を相対的に捉えるのはウィルソンの「暫定的な理神論」という立場とも関係があるのかもしれない。

“芯の堅い”と“芯の柔らかい”は先天的・後天的に置き換えることも可能だろう。ところが私の育った家庭を振り返るとこれに該当しない。全く困ったものである。父は惜しみなく弱者を助ける性質で少々大袈裟にいってしまえば英雄的気質があった。ただし立派な父親ではなかった。私は長男だが物心ついてから会話らしい会話をした記憶がない。極端に正義感が強いと家庭を省みることが少なくなる。つまり父や私に関しては“芯の堅い”利他主義は存在しない。むしろ逆で血縁関係を軽んじるところがある。

 日本において核家族化が急速に進んだのは私が生まれた1963年(昭和38年)のこと。出生率のピークは10年後の1973年(昭和48年)で209万人(出生率 2.14)となっている。核家族・少子化の影響も考慮する必要があるだろう。

「義を見てせざるは勇無きなり」(『論語』「為政」)という。「弱きを助け強きを挫く」のは当然だ。利他行動を失えばもはや動物である。その意味からも社会機能を正常に維持するためには窃盗や詐欺などの犯罪には厳罰を課すべきだ。特に振り込め詐欺を放置してきた警察・銀行・政府与党の責任は重い。

2017-07-20

整形手術の是非あるいは功罪


『なぜ美人ばかりが得をするのか』ナンシー・エトコフ

 ・整形手術の是非あるいは功罪

 15年ほど前になるがある掲示板のやり取りで「整形手術は人体コスプレだ」と書いたことがある。コスチューム・プレイ(以下コスプレ)は1990年代から盛り上がりを見せたらしいが私が知ったのは2000年前後のこと。テレビでは『B.C.ビューティー・コロシアム』(2001年)や『整形美人。』(2002年)が放映された。

「目は心の窓」というがこれに倣(なら)えば「顔は遺伝子の玄関」である。「居間」でも宜しい。顔と体型が遺伝情報をもっともわかりやすく表現している。獲物獲得能力に(カネを稼ぐ)オスの優位性があるのは確かだが、健康や身体能力は顔と体型に表れる。

 整形手術の最大の問題は遺伝情報を隠蔽するところにある。「じゃあ女性の化粧はどうなんだ?」という声が当然出てくることだろう。文化的には身だしなみであるが、まあインチキであることに変わりはない。髪型や服装はその人のセンスを示すものとして許す。

 21世紀に入り整形手術は一種のリフォームとして捉えられるようになったと思われるが、様相が変わったのは韓国の整形文化が伝えられるようになった頃からである。


 美人女優まで整形するってえんだから、もはや化粧レベルのお手軽さである。韓国では既に女子小中学生が母親と連れ立って美容整形をしているらしい。

 後ろめたさや疚(やま)しさを感じないのだろうか? 多分感じないのだろう。だったら「どうぞご勝手に」だ(笑)。

 もしも結婚相手が整形していたとすればあなたはどう思うか? そこに自(おの)ずと答えがある。俺は嫌だね(笑)。

 たとえ整形したとしても「醜い自分」「劣った自分」から自由になることができるとは到底思えない。

2017-07-19

エリザ・R・シドモア、他


 13冊挫折、1冊読了。

弱者の戦略 (新潮選書)
稲垣 栄洋
新潮社
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 良書。ヨーロッパの紋章には動物が多いが日本の家紋は植物が多い。天皇陛下を中心とする文化は強さよりも継続性という繁栄を好んだのだろう。弱者はニッチ(隙間)で生き延びる。

ヒマラヤ登攀史 (岩波新書 青版)
深田 久弥
岩波書店
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 これまた良書。ヒマラヤとは古いサンスクリット語のヒマ(雪)+アラヤ(居所)の合成後で「雪の居所」を示す。アラヤでピンと来る人もいるだろうが阿頼耶識の「アラヤ」である。再読する予定。

ドラゴン・オプション (小学館文庫)
中原 清一郎
小学館 (2016-08-05)
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「その昼下がり、マカオのホテル『イージス』の1階にある大ホールでは、大陸・香港・台湾の合作になる映画『義侠の園』の制作発表が行われた」という冒頭の文章で挫けた。「その」は不要だろう。

なっとく!数学通になる本
中宮寺 薫
インデックス・コミュニケーションズ
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 図が多くそのどれもが目を引く。「2匹の雉と2日とが、いずれも『2』という同じ数であることに気づくまでには長い年月を要したに違いない」バートランド・ラッセル。

戦艦大和ノ最期 (講談社文芸文庫)
吉田 満
講談社
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 あとわずかというところで放り投げる。「そういえば……」と検索したのが運の尽き。Wikipediaに詳細があるが本書にはフィクションが多く紛れ込んでいる。何か騙されたような気になって嫌になっちまった。


 悪書である。「姿かたちや体質だけでなく、知能や感情、つまり『こころ』を生み出す脳の作り方も書き込まれていると考えることが自然だと、私は思います」(4ページ)。科学者とは思えぬ文章だ。


 視点が低い。

職人衆昔ばなし (文春学藝ライブラリー)
斎藤 隆介
文藝春秋
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 私が持っているのは文藝春秋版続篇もある。読むのが遅すぎた。職人ものの古典である。

〈わたし〉はどこにあるのか: ガザニガ脳科学講義
マイケル・S. ガザニガ
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 ガザニガが苦手である。

文庫 近衛文麿「黙」して死す (草思社文庫)
鳥居 民
草思社
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 鳥居民〈とりい・たみ〉も苦手である。工藤美代子著『われ巣鴨に出頭せず 近衛文麿と天皇』を補うためには必要か。

脳はなぜ都合よく記憶するのか 記憶科学が教える脳と人間の不思議
ジュリア・ショウ
講談社
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 著者は偽の記憶を埋め込む実験で有名らしい。文章が冗長で読むに堪えず。

理性の暴力~日本社会の病理学 (魂の脱植民地化 5)
古賀 徹
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「いじめ、集団自決、ハンセン病の強制収容、水俣、原発。 理性の限界事例に即して徹底思考する理性の自己批判」(帯の惹句)。「叢書 魂の脱植民地化 5」である。安冨歩〈やすとみ・あゆむ〉にはもう愛想が尽きた。沖縄の反基地活動家を煽るようになった時点でアウト。叢書に安冨がどのように関わっているのかはわからぬが読む気が失せた。そもそも暴力や集団性については進化科学的に解き明かすのが筋で、哲学や社会学は文学の域を脱していないように思われる。私は人権を決して軽視するつもりはないが人権を語ることに意味を感じない。語れば語るほど人権のフィクション性が浮かび上がってしまうためだ。

官賊と幕臣たち―列強の日本侵略を防いだ徳川テクノクラート
原田 伊織
毎日ワンズ
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 偶然リアルタイムですんすけ(@tyuusyo)氏のツイートを読んで放り投げた。ブログ記事「Q&A 原田伊織のサムライエッセー批判まとめ」(随時更新)を参照せよ。

シドモア日本紀行: 明治の人力車ツアー (講談社学術文庫)
エリザ・R・シドモア
講談社
売り上げランキング: 52,652

 エリザ・ルアマー・シドモア(1856-1928年)はアメリカで生まれスイスで没した。ワシントンD.C.のポトマック河畔に桜並木を作ることを提案した人物として知られる。日本を褒められて悪い気がする人はいないと思うが、白人特有の人種差別意識から自由な女性であったようだ。文章もよく、古き日本の姿が目に浮かんでくる。「日本の近代史を学ぶ」に追加。