2015-09-11

アミール・D・アクゼル、斎藤充功、舩坂弘、岩下哲典、磯田道史、他


 10冊挫折、6冊読了。

シリーズ日本近現代史10 日本の近現代史をどう見るか』岩波新書編集部編(岩波新書、2010年)/書き手は井上勝生、牧原憲夫、原田敬一、成田龍一、加藤陽子、吉田裕〈よしだ・ゆたか〉、雨宮昭一〈あめみや・しょういち〉、武田晴人〈たけだ・はるひと〉、吉見俊哉〈よしみ・しゅんや〉。岩波書店は戦後、雑誌『世界』の誌面を進歩的知識人(左翼)に提供してきた出版社である。左翼の呻き声みたいな代物で読む価値はないと判断した。

シリーズ日本近現代史1 幕末・維新』井上勝生(岩波新書、2006年)/amazonの★一つレビューを読むと、やはり左翼であると思われる。日本を貶めるのが彼らの仕事だ。

日本の歴史18 開国と幕末改革』井上勝生(講談社学術文庫、2009年)/というわけで1頁も読まず。井上は北大名誉教授。北海道は日教組が強く左翼の巣窟である。北海道に渡った人々には長男が少なく、先祖を敬う気風に欠ける。と道産子である私が断言しておこう。離婚率が高いのも「家を背負っていない」ため。

ホワット・イフ? 野球のボールを光速で投げたらどうなるか』ランドール・ マンロー:吉田三知世訳(早川書房、2015年)/池谷裕二の書評に騙された。ネット上で寄せられた質問に答えたQ&A集。それほど面白くない。

日本軍は本当に「残虐」だったのか 反日プロパガンダとしての日本軍の蛮行』丸谷元人〈まるたに・はじめ〉(ハート出版、2014年)/ダメ本。文章がいいだけに惜しまれる。イデオロギーとしての右翼はその姿勢において左翼と変わりがない。先入観に染まった景色に興味はない。

面白い本』成毛眞〈なるけ・まこと〉(岩波新書、2013年)・『もっと面白い本』成毛眞(岩波新書、2014年)/全然面白くない。成毛がノンフィクション専門とは知らなんだ。ノンフィクションに重きを置く態度が今ひとつ理解できない。

モチーフで読む美術史』宮下規久朗〈みやした・きくろう〉(ちくま文庫、2013年)/説明に傾き過ぎて文章が平板。エッジを効かせた文体が欲しいところ。

生きていくための短歌』南悟(岩波ジュニア新書、2009年)/定時制高校に通う生徒諸君の歌集。短歌は著者サイトでも読める。授業の成功と短歌の良し悪しは別物であろう。あまり心に引っ掛からず。

時間の図鑑』アダム ハート=デイヴィス:日暮雅通〈ひぐらし・まさみち〉訳、山田和子協力(悠書館、2012年)/ヴィジュアル本はフォントが小さくて読みにくい。前半は素晴らしいのだが後半まで息が続かない。仏教と量子力学までフォローしてもらいたかった。高価な本はまず図書館で借りてから購入を検討するのがセオリーだ。

 102冊目『いくらやっても決算書が読めない人のための 早い話、会計なんてこれだけですよ!』岩谷誠治〈いわたに・せいじ〉(日本実業出版社、2013年)/今まで読んだ中では一番わかりやすかった。それでも決算書を読めるようになるには遠い道のりである。

 103冊目『日本人の叡智』磯田道史〈いそだ・みちふみ〉(新潮新書、2011年)/著者は大学教授にして古文書オタク。題材で読ませる。文章に締まりを欠くが内容は素晴らしい。読むだけで背筋が伸びる。

 104冊目『予告されていたペリー来航と幕末情報戦争』岩下哲典(新書y、2006年)/文章に冴えがない。黒船来航といえば「泰平の眠りを覚ます上喜撰 たつた四杯で夜も寝られず」との狂歌が思い出されるが、この歌が後代の作であることを示す。ペリー来航は予想された出来事であった。当時のインテリジェンス能力は現在の政府よりも遥かに上である。しかも適切な対応ができた。阿部正弘、黒田斉溥、島津斉彬を中心に、佐久間象山・吉田松陰らの役割が明らかにされている。阿片戦争に対する危機意識の高さが彼らの能力を十二分に引き出したのだろう。

 105冊目『英霊の絶叫 玉砕島アンガウル戦記』舩坂弘〈ふなさか・ひろし〉(光人社NF文庫、1996年/新装版、2014年/文藝春秋、1966年『英霊の絶叫 玉砕島アンガウル』を改題)/舩坂弘は超人的な身体能力と体力の持ち主で「不死身の分隊長」と呼ばれた人物。白兵戦における強さは和製ランボーといってもターミネーターといってもよい。隣のペリリュー島の玉砕については知られていたが、アンガウルの戦いを公にしたのは本書が嚆矢(こうし)と思われる。剣道を通して親交のあった三島由紀夫が一文を寄せる。偉大なる父祖の戦いに涙止まらず。大小20ヶ所以上の傷を抱えながら船坂は米軍司令部で自爆攻撃を試みる。が、手榴弾の安全ピンを抜こうとした瞬間に狙撃される。阿修羅のような船坂にアメリカ軍人たちは「勇敢なる兵士」の名称を送り絶賛した。

 106冊目『日本スパイ養成所 陸軍中野学校のすべて』斎藤充功〈さいとう・みちのり〉、他(笠倉出版社、2014年)/小野田寛郎の任務が山下財宝(丸福金貨)の秘匿であったという想像が紹介されている。全体的には悪くないのだが、いささか予断と臆見が目立つ。

 107冊目『量子のからみあう宇宙』アミール・D・アクゼル:水谷淳訳(早川書房、2004年)/アミール・D・アクゼルの本には外れがない。量子力学を築いた人々の系譜。各章もすっきりしていて実にわかりやすい。図や式は飛ばして構わない。私もチンプンカンプンであった。量子力学の天敵アインシュタインを巡る物語でもある。

2015-09-07

論理万能主義は誤り/『国家の品格』藤原正彦


『妻として母としての幸せ』藤原てい
『天才の栄光と挫折 数学者列伝』藤原正彦
『祖国とは国語』藤原正彦

 ・論理万能主義は誤り

『日本人の矜持 九人との対話』藤原正彦
『日本人の誇り』藤原正彦
『武士道』新渡戸稲造:矢内原忠雄訳
『お江戸でござる』杉浦日向子監修
『自由と民主主義をもうやめる』佐伯啓思

日本の近代史を学ぶ

 もう一度言っておきましょう。「論理を徹底すれば問題が解決出来る」という考え方は誤りです。論理を徹底したことが、今日のさまざまな破綻を生んでしまったとも言えるのです。なぜなら「論理」それ自体に内在する問題があり、これは永久に乗り越えられないからです。

【『国家の品格』藤原正彦(新潮新書、2005年)以下同】

 城西国際大学・東芝国際交流財団共催の講演記録をもとに執筆。横溢するユーモアと日本の誇りが並び立つ稀有な一書。1990年代から顕著となった日本の近代史見直しを国民的な広がりへといざなったベストセラーである(260万部)。

 かつて帝国主義が正義とされた時代があった。欧米諸国が植民地をもつのは当然だとアフリカ人もアジア人も思い込んでいた。現在はびこっている国際主義も後から振り返れば誤っている可能性がある。藤原は実力主義も誤りで、「資本主義の勝利」は幻想にすぎず、「会社は株主のもの」という考え方も否定する。学説よりも常識を重んじる主張がわかりやすい。そして「論理は世界をカバーしない」と言い切る。

 この事実は数学的にも証明されています。1931年にクルト・ゲーデルが「不完全性定理」というものを証明しました。
 不完全性定理というのは、大ざっぱに言うと、どんなに立派な公理系があっても、その中に、正しいか正しくないかを論理的に判定出来ない命題が存在する、ということです。正しいか誤りかを論理的に判定出来ないことが、完全無欠と思われていた数学においてさえある、ということをゲーデルは証明したのです。
 この不完全性定理が証明されるまで、古今東西の数学者は、こと数学に限れば、どんな命題でも正しいか誤りかのどちらか一つであり、どちらであるかいつかは判定できる、と信じ切っていた。ところがゲーデルはその前提を覆したのです。人間の頭が悪いから判定出来ないのではない。論理に頼っていては永久に判定出来ない、ということがある。それを証明してしまったのです。

ゲーデルの生と死/『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』高橋昌一郎
ゲーデルの不完全性定理

 藤原は情緒を重んじる男であるが、数学者なので根拠を重視している。話し言葉がわかりやすいだけに誤解してはなるまい。数学者の仕事は「証明する」ことなのだ。安っぽい感情保守とは一線を画している。

 人類三大発明の一つである活版印刷は飛躍的な知識普及を実現したが、結果的には言葉と思考で脳を束縛した。我々はたぶん左脳が肥大していることだろう。右手も明らかに使いすぎている。

 西洋で論理思考が発達したのは「神の存在」を証明するためであった。日本の場合、情緒に傾きすぎて学問は術レベルにしか至らなかった。幕末の開国から大東亜戦争敗戦に至る経緯は「西洋の総合知に敗れた歴史」であったと見ることもできよう。そして日本は自虐史観によって誇りを奪われ、国家観を見失い、経済一辺倒の無色透明な準白人国家となってしまった。

 そろそろキリスト教による普遍主義から多元主義に変わってもいい頃合いだ。そのきっかけとなるのが多分、9.11テロなのだろう。

国家の品格 (新潮新書)
藤原 正彦
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2015-08-30

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